『チャイナシャドー』
アジアでもっとも魅力ある都市は?私の答えは「香港」。その香港が大きく揺れています。
『チャイナシャドー』
猥雑で怪しげで、でもどこか親しげで、中国だったりイギリスだったり、香港はいつも私を魅了し、行けばホッとする街でもありました。政治的なことはこのブログでは書きませんが、代わりに、ある映画をご紹介したいと思います。
(※ネタバレになりますので、ご注意ください)
1990年に公開された『チャイナシャドー』という映画をご存知でしょうか?主演はジョン・ローン、「ラストエンペラー」では清王朝最後の皇帝、溥儀を演じ、ジャッキーチェンとも共演した名優。ジョン・ローン演じる主人公は中国の紅衛兵でしたが、対岸の中国の村から海を泳ぎ渡り香港に密入国。その後、裏社会でのし上がり富を得ますが、その過程で恨みを買い、自らの命を狙われ、恋人まで殺されてしまう。さあ、ここから復讐劇だ!10倍返しだ!と思ったところで彼は思い悩みます。そして、彼が下した決断は、苦労して命がけで逃げてきた祖国、中国に還ること。還るときは陸路で国境の森の中に消えていきました。
この結末は意外でした。「なぜ?」と思ったし、当時なら多くの人がそう思ったはず。
1990年とは
映画が公開された1990年、日本はバブル絶頂期。そのころまだ世界は西と東に分かれていました。そんななか1989年の春には天安門があり、秋にはベルリンの壁が崩壊します。1991年にはソ連が崩壊し、いわゆる西側(=民主主義)が勝利に沸いていたのが、1990年です。
1998年に中国に返還されることが決まっていた香港ですが、東側(=社会主義、共産主義)の中国に併合されても、いつかは香港が中国本土を飲み込むだろう、と西側の我々は考えていました。と同時に香港の資産家たちは共産化を恐れて、次々とカナダやオーストラリアなどに資産を移し、子息を留学させ、永住権を取るのに必死になっていたころでもあります。一方で、1993年に私が中国を旅行していたとき、香港から来た20代の男3人組と話す機会がありました。つたない英語でしたが「香港が中国に返還されることをどう思うか?」と尋ねたところ、3人とも「中国のほうがいい、イギリスよりはマシだ」と話してくれました。資産家でもない若者からすれば、植民地であるよりは、体制はなんであれ、中国人に統治されることを望んでいました。当の香港人からすれば、ジョン・ローンが中国に還ることは、さほど違和感がなかったのかもしれません。
2020年のいま
いまこの映画を観て、当時の私と同じく「なぜ?」と思う人はどれくらいいるでしょうか。2000年代の初めから始まった中国の大躍進。30年前、短期間にここまで中国が発展するとどれくらいの人が予想できたでしょうか。それを知っていたなら彼の選択には何の不思議もないと思う人が多いかもしれません。私でさえ、彼の選択は正しいし、自分でもそうしただろうと思います。
ただ、それも2年ほど前までなら、という気がします。この2年で香港は大きく変えられてしまいました。
30年を経たいま、ジェネレーションZと呼ばれる人たちに、ぜひこの映画を観てもらいたいと思います。
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